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東京地方裁判所 昭和60年(ホ)15695号 決定

被審人 ヤーマン株式会社

右代表者代表取締役 松本行雄

主文

被審人を過料七〇〇万円に処する。

理由

一  救済命令及び緊急命令

記録によれば、次の事実を認めることができる。

1  東京都地方労働委員会は、申立人を総評全国一般東京地方本部チトセ労働組合とし、被申立人を本件の被審人であるヤーマン株式会社とする都労委昭和五四年(不)第四二号不当労働行為申立事件について、昭和五六年八月二五日付で救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発し、その主文は、「被申立人は、総評全国一般東京地方本部チトセ労働組合の組合員林恵子、同石井陽子、同大井由美子、同富永由布子に対する昭和五五年一二月二三日付解雇がなかったものとして取り扱い、同人らを原職または原職相当職に復帰させるとともに、解雇した日の翌日から復帰するまでの間に同人らが受けるはずであった諸給与相当額を支払わなければならない。」というものである。

2  被審人は、本件救済命令を不服として昭和五六年九月二二日中央労働委員会に再審査の申立てをしたが、同委員会は昭和五九年一〇月三日付で右再審査申立てを棄却する命令を発した。

3  これに対し、被審人が、当裁判所に右命令取消の訴えを提起した(当庁昭和五九年(行ウ)第一五六号不当労働行為救済命令取消請求事件)ところ、当裁判所は、右委員会の申立て(当庁昭和六〇年(行ク)第六号緊急命令申立事件)により、昭和六〇年三月二八日、被審人に対し、右不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、本件救済命令の主文のうち、石井陽子に関する部分を除くその余の部分に従うべきことを命ずる旨の決定(以下「本件緊急命令」という。)をした。該決定の理由とするところは、本件救済命令の事実認定及び判断はおおむね正当として是認することができ、そこに重大かつ明白な瑕疵等特段の事情があるとは認められず、その履行がなくこれに違反する場合は組合員林恵子、同大井由美子、同富永由布子の生活は相当程度困窮し、また同時に組合の団結権も侵害され回復し難い損害を被ることが一応認められる、というものである。

二  記録によれば、被審人は、本件緊急命令決定正本を昭和六〇年三月二九日に送達を受けたが、その履行をしなかったため、当裁判所により当庁昭和六〇年(ホ)第九五〇七号労働組合法違反過料事件について、昭和六〇年七月二日付で、過料一〇〇万円に処する旨の決定を受けた。それにもかかわらず、被審人は、その後も今日に至るまで一切本件緊急命令の履行をしていない(ただし、別件仮処分申請事件の判決の履行については後記のとおりである。)ことが認められ、また、その履行をする意思があるとも到底認められないところ、被審人は、その理由として、前記過料事件に際してと同様、その後も「原職復帰させても仕事をしないことがはっきりしており、戻すと他の社員に、はなはだ迷惑になる。」とか「緊急命令の理由が納得できない。」と述べるのであるが、右のことが本件緊急命令を履行しない正当の理由となりえないことは本件過料事件において重ねていうまでもないところである。

もっとも、被審人は、本件救済命令における事件と当事者及び紛争の内容を実質上同じくする当庁昭和五六年(ヨ)第二二〇八号地位保全仮処分申請事件について、当庁民事第一九部により、昭和六〇年一二月二三日、別紙仮処分判決主文のとおりの判決の言渡しを受けた(なお、被審人は同月二六日控訴した。)のち、同事件の債権者林恵子、同大井由美子、同富永由布子の三名との間において、昭和六一年一月二二日、右仮処分判決で認容された賃金の仮払及び同判決を債務名義としてすでになされていた民事執行費用の支払を履行するため覚書を締結し、右三名に対し、同日、一〇四七万七三六一円を、同年二月二五日、五三二万九六九五円を、同年三月二五日、五〇五万〇四七九円を、同年四月二五日、五一一万〇一一七円を、また、同年五月二五日以降毎月二五日限り、債権者林に対して二〇万三八〇七円を、同大井に対して二〇万〇五〇三円を、同富永に対して二〇万五八〇七円をそれぞれ支払う旨の合意をし、現在その履行中であることを認めることができ、被審人が右合意を履行する場合には、経済的には本件緊急命令のうち諸給与相当額の支払を命ずる点の一部を履行するのと同一の状態となるのであるが、もとより右の支払も本件緊急命令で履行を命ずるところの諸給与相当額に満たないうえ、原職復帰については全く履行されないのであるから、右合意の履行をもって本件緊急命令に従わない正当の理由となしえないことはいうまでもないところである。

以上のとおりであって、被審人の本件緊急命令軽視の態度は許されるものではないというべきである。

してみると、被審人の本件緊急命令違反行為は労働組合法三二条前段に該当するものである。

よって、諸般の事情を考慮し、被審人を過料七〇〇万円に処することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 白石悦穂 裁判官 林豊 納谷肇)

〈以下省略〉

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